太陽系は約46億年前、銀河系(天の川銀河)の中心から約26,000光年離れた、オリオン腕の中に位置。

 

ウクライナ侵攻の出口対談「ロシアを糾弾だけでは停戦は実現しない」 的場昭弘・神奈川大学副学長×伊勢崎賢治・東京外国語大学教授

ウクライナ

2022/03/16 11:00

地下鉄の駅でロシア軍の砲撃を避けるキエフ市民(Getty Images LOS ANGELES TIMES)
地下鉄の駅でロシア軍の砲撃を避けるキエフ市民(Getty Images LOS ANGELES TIMES)

 ロシアのウクライナ侵攻で犠牲者が増え続けている。停戦の糸口はあるのか。AERA 2022年3月21日号で、旧ソ連圏の歴史に詳しい専門家と、紛争解決のプロが意見を交わした。

【写真】ロシア軍の攻撃から逃げる人々や、家が破壊され瓦礫が散乱するウクライナの様子

*  *  *

 停戦を実現するためにはどうすべきか。旧ソ連圏の歴史に詳しい的場昭弘・神奈川大学副学長と、国連平和維持活動(PKO)で紛争地での武装解除などに関わった伊勢崎賢治・東京外国語大学教授の対談は、歴史的背景まで探りながら多岐に及んだ。

伊勢崎:ロシアの砲撃による原発火災を受けて3月4日に開かれたNATO(北大西洋条約機構)の会合で、ストルテンベルグ事務総長の最初の一声は「NATOは戦争の当事者じゃない」。派兵も飛行禁止区域も「戦闘になるから」設定しないと。軍備支援はするものの、届ける確証のないまま、外野からの「戦え、戦え」という合唱ばかりでウクライナ人だけに戦わせている。非常に歪(いびつ)な構造です。なぜ「停戦交渉」を言わないのか。

的場:ウクライナのゼレンスキー大統領は見誤ったと思います。ロシアが攻めてきても、何らかの手助けが来ると。一方でロシアは、ベラルーシ方面からや(ウクライナ北東部の)ハリコフなどへの攻撃に限定し、ポーランド側の地域は「開けて」います。そこから見えるのは、この攻撃はおそらく条件闘争だということ。(親ロシア派が支配する)ドネツク、ルガンスク両地域の独立を条件とした限定的な戦いだと見ます。

 ところがゼレンスキーのほうはショーをやってしまっている。ぼろぼろの服を着て、追い込まれて大変だという雰囲気を醸し出しながら、民衆には「武器を取って戦え」と。国軍同士なら状況次第で降伏しますが民衆は降伏しませんから、どんどん犠牲者が増えてしまう。民衆には絶対に銃を渡しちゃだめなんです。そこを煽(あお)れるのは彼が役者出身だからというのが皮肉な話ですが。

伊勢崎:大事なポイントです。国際人道法では本来、戦闘員と非戦闘員は明確に識別しなければなりません。でもテロ組織の義勇兵など非正規な戦闘員が戦う現代の戦場は、そこが曖昧になり、大量の市民を巻き添えにしている。アフガニスタンを皮切りにアメリカが始めた対テロ戦はその最たるものです。ゼレンスキーは、ウクライナ市民に銃を取れと公に言ってしまいました。これは、無辜の市民を殺しても「戦闘員だった」と言える口実をロシアに与えていること。市民の犠牲が増えるだけです。

ウクライナ侵攻の出口対談「ロシアを糾弾だけでは停戦は実現しない」 的場昭弘・神奈川大学副学長×伊勢崎賢治・東京外国語大学教授

ウクライナ

2022/03/16 11:00

ロシア軍の攻撃から逃げるため橋を渡る人々(Getty Images)
ロシア軍の攻撃から逃げるため橋を渡る人々(Getty Images)

■交渉を粘り強く見守る

 一日も早く停戦を実現すべきです。停戦とは現場の凍結。帰属問題などは棚上げし、まずは戦いを止めること。ただ、停戦に合意しても「停戦合意破り」がおそらく何度も起きます。粘り強く見守るしかないのです。

 停戦合意とは政治合意。両国の正規軍は原則守るはずですが、問題は、ゼレンスキーが世界に呼びかけている義勇兵など非正規の戦闘員です。正規の指揮命令系統に制御されにくい彼らが現場を混乱させる前に、どう停戦を定着させるかが重要です。

 さらに信頼醸成が進んできた頃合いで、第三者の仲介が意味を持ってきます。今、国連は安全保障理事会が機能不全です。常任理事国の一つが紛争当事者国ですから。だからといって何もできないわけではありません。第2次中東戦争では常任理事国のフランスとイギリスが当事者国でしたので、停戦監視のためのミッションを国連総会で発動し、これが現代のPKOの元祖になったのです。中立の「停戦監視ミッション」を作れる可能性はまだあります。

■ロシアがすべき努力

的場:いつかは停戦、講和条約へと進むことになります。ただ、ロシア側が「自分たちもたくさんの民族による国家であること」を理解しない限り、不安定要因はこの先も続きます。

 ツァー体制(帝政ロシアの専制政治体制)のときも、他の弱小民族を支配して上から押さえつけた。ロシア革命ではそれに対し、民族独立運動とボルシェビキ(ソ連共産党の前身)が共に戦って勝利したのですが、その後また、ロシア共和国の人間が中心となってだんだんと各地域を支配することになった。長い歴史ではあります。でもロシアが「危険要因であることをやめていく努力」をすること。ロシアが世界に認められるために絶対に必要なことだと思います。

伊勢崎:その努力をどう引き出していくかですよね。今後、理想的な決着点があるとしたら、夢に近いものですが、三つあります。一つは、ロシアが既に併合したクリミア半島は諦めても、ドネツク・ルガンスクに関しては独立ではなく「高度な自治」に譲歩させる。例えば国連の「非自治区指定」をして全世界で自治を見守っていく姿勢を示す。

 二つ目はウクライナがNATOにもロシア側のCSTO(集団安全保障条約機構)にも属さない主権の選択をする。三つ目はチェルノブイリを含めた核施設で、例えば「半径何キロ以内は非武装化」と指定し、IAEA(国際原子力機関)を主体に国際監視ミッションを入れる。ロシアが脅威ではないことを少しでも世界に示せれば、ロシアにとってもいいことのはずです。

ウクライナ侵攻の出口対談「ロシアを糾弾だけでは停戦は実現しない」 的場昭弘・神奈川大学副学長×伊勢崎賢治・東京外国語大学教授

ウクライナ

2022/03/16 11:00

家が破壊され、瓦礫が散乱していた(Getty Images)
家が破壊され、瓦礫が散乱していた(Getty Images)

 どう納得させるか。カギはアメリカでしょう。「NATO東方拡大にアメリカとしては興味がない」と、密約でも構わないのでプーチンに伝えることです。

的場:私は、ウクライナは中立化するしか生きる道はないと思います。地理的にさまざまな国や民族が行き来し、ときに土足で踏みつけられてきた「ヨーロッパの廊下」のような存在です。ロシアにとってはNATO、EU(欧州連合)との緩衝国家(クッション役を果たす国)でもあります。さらにウクライナを流れるドニエプル川、ドネツ川はロシアへつながり、黒海から入った船はこれらを上ってロシアへ行く。ウクライナがここを「占領」することは難しく、中立化して「開けて」おかないといけないんです。

伊勢崎:そこは国民の意思を超えたところでの「宿命」ですね。ウクライナは緩衝国家を自覚するしかない。西、東、どちらに付くかで、市民が死んではならないのです。日本でも「ウクライナを支持する」として「反戦」を訴えている人がいます。私は違和感がある。悲惨な敗戦を経験した国民なら、なぜ「国家のために死ぬな」と言えないのか。

的場:気になるのは、私たちは西側視点のニュースだけで「悪いロシア」のイメージを作っていることです。おそらく私たちもメディアも、最初から「敵・味方」を分けてしまっている。私は戦争には反対しますが、どちらかを応援することはない。でも多くの国で今、一方的に「ウクライナ支持のために」という視線での報道がなされる。極めて危険なことです。

■南アが棄権した理由

伊勢崎:同感です。プーチンがやっていることは確かにひどい。ただ、「悪玉プーチン」だけに偏ると見えてこないことがある。

 3月2日の国連総会で、ロシア非難決議に棄権した国が35カ国ありました。南アフリカもその一つですが、棄権というより「こういう決議は対話を生まない」と実は明確に反対している。ANC(アフリカ民族会議)議長も務めた故ネルソン・マンデラがアメリカのテロリストリストから除外されたのは2008年のこと。一方で、南アフリカの反人種隔離運動の最大の支援国だったのはソ連。そういう背景はあるでしょう。ただ、一方的な決議は「既にひどい亀裂を生んだ民族対立を修復しない」と、アパルトヘイトを対話で克服した国が表明したのです。日本では報道されませんでした。

 プーチンは悪玉で、ウクライナは善。そんな構図にとらわれ、ロシアを糾弾するだけでは、戦争は長引くだけ。そう思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年3月21日号

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